毎月のお給料から差っ引かれている「保険料」について、解説を試みようと思います。
「そもそも自分の給与明細をちゃんと見ていない」「なんでこんなに引かれているのかと思ったことはあるけど詳しいことは分からない」という勤め人は意外にいるのではないでしょうか。0.01%の投信コストには敏感なインデックス投資家もまた然りかと。
給料から差し引かれている主なおカネは、多くの人にとっては税金と保険料の2本柱です。前者は所得税と住民税、後者は健康保険(公的医療保険)、厚生年金保険(いわゆる年金)、介護保険(40歳以上のみ)、雇用保険の保険料にそれぞれ細分化されます。
これらの中で今回お伝えしたいのは、「健康保険」と「厚生年金保険」の保険料がどのようにして決まっているか、であります。
知っている人にとっては基本的な内容ですし、ググればすぐに分かる話ですが、備忘のためにも私なりに噛み砕いて書き記したいと思います。前編・後編の2部作となりますが、皆様のお役に立てれば何よりです。
なお、似て非なるものとして、国民健康保険、国民年金があります。これらは自営業者などを対象としている制度であり、今回の記事では取り扱いません。
保険料の計算式
毎月の健康保険の保険料も、厚生年金保険の保険料も、次の数式から算出されます。言わずもがな、何よりもこれが基本形となります。
標準報酬月額 × 保険料率
つまり、標準報酬月額と保険料率それぞれの決定ルールが分かれば、保険料の決まり方も分かる、ということです。
標準報酬月額って?
「標準報酬月額」とは聞きなれない言葉です。が、その人にとって標準的な1か月の給料(報酬)というくらいのイメージを持っておけば良いと思います。
その決まり方にはいくつかのパターンがあるものの、以下は月給制のサラリーマンのケースを念頭に置いて解説します。
標準報酬月額は、原則として毎年1回、個人ごとに決められます。
具体的には、まず、その人の4月・5月・6月の給料(報酬)の平均額を出します。この月あたりの平均額のことを「報酬月額」といいます。
平均額を算出する基礎となる給料(報酬)には、基本給、残業代、通勤手当、住宅手当など大体のものが含まれると考えて良いと思います。
そして、報酬月額を「標準報酬月額等級区分」に当てはめることで標準報酬月額が決定されます。
等級区分
「標準報酬月額等級区分」とは、例えば、報酬月額が290,000円から310,000円までの場合は標準報酬月額「300,000円」(健康保険では22等級、厚生年金保険では19等級)、報酬月額が425,000円から455,000円までの場合は標準報酬月額「440,000円」(健康保険では28等級、厚生年金保険では25等級)というように、人によって様々な報酬月額にそれぞれ対応する区分のことをいいます。単に「等級」と呼ぶことが多いと思われます。
なぜワザワザこんなことをしているかというと、「計算しやすくするため」と聞いたことがあります(健康保険組合の中には未だに手計算で保険料を出しているところがあるとか。ホンマかいな…)。
健康保険と厚生年金保険の等級の数とズレ
健康保険では1等級58,000円(63,000円未満)から50等級1,390,000円(1,355,000円以上)まであるのに対し、厚生年金保険では1等級88,000円(93,000円未満)から31等級620,000円(635,000円以上)までしかありません。
このため、標準報酬月額88,000円は、健康保険の4等級である一方、厚生年金保険では1等級となります。また、報酬月額がジャスト100万円だった場合、標準報酬月額で見ると、健康保険では43等級980,000円であるのに対し、厚生年金保険では最高等級である31等級620,000円で頭打ちとなり、実に12等級もの開きが出ます。
こうなっている理由は、おそらく、健康保険の場合は保険料によって「病院の窓口での3割負担」などのサービス(給付)内容に差がないのに対し、厚生年金保険の場合は保険料と年金額が比例することにあります。つまり、厚生年金保険の保険料が多いほど年金額も多くなるので、報酬月額の多い人からたくさん徴収しようというインセンティブが制度設計サイドで働きにくかったのだと思われます。
逆に、収入の多い人にとっては、健康保険の保険料はたくさん取られてばかりでそれに応じた見返りがないということになります。それが強制加入保険のサダメなのでしょう…。
特定の3か月の給料が保険料算定の基礎となる謎
また、なぜ4月・5月・6月という、特定の3か月間だけの給料の平均額を報酬月額として保険料算定の基礎とするのか、という点も謎です。これについては、以下のブログ記事がとても参考になりました。なんと、わざわざ厚生労働省に問い合わせて得られた見解が紹介されています。
謎への答えを一言でいうと、「事務負担を減らすため」とのこと。やはりここでも手計算の健康保険組合のことを慮っているのかもしれません。
ちなみに私の職場の場合、事務的な都合で、年度末である3月分の残業代が最も多く出て、4月支払分の給料が極端に多額となることがあります。その結果、実際よりも過大な標準報酬月額が決定され、1年間、これに基づく過大な保険料を払う羽目になっています。
あまりに理不尽な場合は1年間の合計の給料をベースに標準報酬月額を決めることもできるようですが、残念ながら私のケースでは該当しないようです。
標準報酬月額は1年間適用
決定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年の8月までの1年間、適用されることになります。
この間、給料に大きな変動があった等の要件に該当すれば、1年の途中でも標準報酬月額が見直されるという仕組みもありますが、複雑で細かくなるのでここでは割愛します(日本年金機構のウェブサイトに詳しく書かれています)。
自分の標準報酬月額はどれくらい?
今の標準報酬月額は「何等級のいくらか」を知りたい場合は、給与明細を御覧ください。そこで、健康保険では●等級、厚生年金保険では●等級ということが記載されているはずです。
標準報酬月額の解説はここまで。後編では「保険料率」がどう決まるかについて記します。