虫とり小僧さんのレビュー記事を読んで手に取りたくなった本。
どちらかと言えば、私は公的年金に関する知識があるほうだと思っています。
しかし、年金に懐疑的な人にうまく説明できるかというと、まったく自信がありません。
年金不信は根強く、その理由も「もっとらしい」ものが多いからです。
これからは「この本、特に第1章から第3章までの100ページ余りを読んでみて!」とゴリ押しします。
そう断言できるほど、本書には公的年金を正しく理解するためのエッセンスが詰め込まれています。
もちろん第4章以降も面白いです。はい、本当におすすめです!
年金は貯蓄ではなく保険
本書の第1章は「年金の本質」。
このうち、まず最初に挙げられているのが「年金は”貯蓄”ではなく”保険”」というものです。
これは公的年金にとって一丁目一番地で肝となる考え方。
例えば、老齢年金は長生きリスクに備える保険なのです。
「大切なのは損か得かではなくて、何歳まで長生きしても生活することができるという安心感にあるのです。」との本書の一文は、まさに本質のど真ん中を射抜いています。
この考え方をマスターできれば、「あれ?年金って…意外に悪くないかも…?」と年金不信のほとんどが雲散霧消するとさえ思います。
なお、大江英樹氏の別の著作では、公的年金を「国が死ぬまで支給してくれるお弁当」と表現していましたが、密かに私のお気に入りです。
賦課方式と積立方式
本書の第2章は「年金に対する誤解を解く」の初級編。第3章が中・上級編です。
よくある年金への誤解と、それらの間違いについて解説されています。
合計で9項目あり、いずれも知る人にとっては「あるあるネタ」ではありますが、とても分かりやすく整理されています。
中でも白眉と感じたのが「年金は賦課方式よりも積立方式にすべきだ」との誤解に対する解説です。
賦課方式は、現役世代から同じ時代を生きる受給者にいわば「仕送り」する仕組み。
積立方式は、現役世代が積み立てた年金を高齢になってから受給する仕組みです。
この積立方式について、決定的な問題点が3つ挙げられています。
詳しくはぜひ本書をお読みいただきたいのですが、特に賦課方式から積立方式に移行することは、政策立案を行う身として想像するに、民主国家では不可能だと思います。
ちなみに、賦課方式については第1章の「年金の本質」のところでも登場します。
賦課方式だからこそ、「年金は将来のモノやサービスに対する請求権」という考えが成り立つのですね。
ここも本当に重要。今まで曖昧だった理解がすとんと腹に落ちました。
政争の具となる勿れ
私のイメージでは、普段、公的年金のことはそれほど世間の話題にならず、淡々と運営されているように思います。
しかし、本書にも書かれてあるように、年金には過去に様々な不祥事がありました。
これらのインパクトは凄まじく、そのたびに大きな政治問題になってきました。
2009年には、いわゆる年金記録問題が政権交代(自民党→民主党)の一因にもなったほどです。
このため、今や政府内では年金はかなりセンシティブな案件として取り扱われています。
もちろん大きな問題が生じれば、それは正していかなければなりません。
しかし、本質からは程遠い話でも、間違った理解に基づき、野党やマスコミを巻き込んだ大騒動に発展することもしばしば。
そのことが国民の更なる年金不信を招いているのだとしたら、なんと不幸なことかと思います。
しかし、年金に対する正しい理解がもっと広がれば、年金が政争の具となることも減るでしょう。
今この瞬間も多くの人の生活を支えている公的年金。
これからも安定的に維持発展すると良いな…と心から期待しています。