資産形成はなるべく早く始めた方が良いと言われています。
その理由は様々ありますが、「インデックスファンドを毎月一定額、コツコツと積み立てていく方法」を前提に考えると主に次のようなものがあると思います。
- 複利のメリットを享受できる期間がより長くなる。
- 市場の大暴落が起こっても平準化されるため、リスクを低く抑えることができる。
- ファンド購入のタイミングが分散されるため、「高値掴み」のリスクを低減できる。
- 毎月の積立額が多くなくても、最終的にそれなりの投資元本になる。
つまり、資産形成でも、ミスチルが歌っているように「長く助走をとった方がより遠くに飛べる」と言えるのです。
飛ぶタイミングが難しい
一方で、飛ぶ=資産を取り崩すタイミングも重要です。
「できるだけ助走を長くしなきゃ」と走ってばかりいると、いつの間にか飛ぶタイミングを逸してしまう。
せっかく資産形成に成功したのなら、ちゃんと使って豊かな生活を送りたいものです。
理想は亡くなる際にちょうど使い切るくらいですかね(子どもには自力で頑張ってもらう)。
しかし、言うは易く行うは難し。
自分が何歳まで健康でいられるか、何歳まで生きられるかなんて、普通は予測できません。
なので、いつ助走スピードを緩めたり(セミリタイア)、そもそも走るのをやめたり(リタイア)するのが良いか、いつから・どれだけ資産を切り崩すのが良いかも分からない。
私なら途中でお金が尽き果てて困ることのないように、かなり保守的に行動しそうな気がします。
公的年金の繰り下げ受給
そんな中、ちょっと気になっているのが、公的年金の繰り下げ受給です。
これは、原則65歳から公的年金を受け取るところ、受給を1か月繰り下げることで0.7%年金額が増額される、というもの。
現在は最長70歳までの繰り下げですが、昨年の年金法改正により、2022年4月以降は75歳まで繰り下げ可能となりました。
この0.7%の増額、なかなか侮れません。
額面ベースだと、5年繰り下げで42%(=0.7×12×5)、10年繰り下げで84%(=0.7×12×10)の増額となるのです。
84%ってなかなかのインパクトよ。
そして、公的年金の最大の特徴は「終身」受け取れること。
その掛金を「保険料」と呼ぶように、公的年金の本質は長生きというリスクに備えた保険です(正式な法律名も「厚生年金保険法」)。
つまり、公的年金は、予想外に長生きしても一生涯年金を受け取れますよ、という制度なのです。
受給を繰り下げれば繰り下げるほど、増額された年金を終身もらえるので、かなり老後の安心につながります。
まさに「長く助走を取った方がより遠くに飛べる」!
なので、リタイア後のマネープランとして、「75歳までは、年金を受け取らず(受給を繰り下げて)、自助で築いた資産を取り崩して生活する」という選択肢は十分アリだと思っています。
手取りベースと制度改正リスク!?
しかし、さらに事態を複雑にするのが社会保障制度の存在です。
現在、医療や介護の分野では、所得に応じて保険料や自己負担割合(病院の窓口で支払う3割負担など)などが決められています。
例えば「住民税非課税世帯」の場合は、これらの負担がかなり低く設定されています。
つまり、多くの年金をもらうことで、社会保障制度の負担が増え、結果的に繰り下げのメリットが得られないケースが生じるのです。
このことを詳細にまとめているのが以下の日経記事です(有料会員限定ですが、無料会員も月10本まで購読可)。
しかも、この記事の試算はあくまで現行の社会保障制度が前提。
ご存知のとおり、社会保障制度には常に財源問題が付きまといます。今後、その持続可能性を考えると、基本的には負担の増加と給付の削減を伴う制度改正しか道はありません。
「負担の増加」を消費税で賄うという考えもありますが、政治的になかなか難しい。
すると、時の政府が「高所得の人にもっと負担していただこう」という政策を選ぶかもしれません。
つまり、将来的に、額面ベースの年金額が多い人の実質手取りがさらに減る可能性も想定しておいた方が良いと思うのです。
損得は結果論!
とまあ、あれこれ書きましたが、あくまで頭の体操です。
今からそんなこと考えても仕方ないからね。
それに、上記の日経記事に付いていた竹川美奈子さんのコメントがとても印象的でした。
「いつまで生きるか誰にもわからない以上、損得は結果論でしかありません。」
公的年金の議論はこのコメントに尽きる気がします。
資産の取り崩しも、公的年金の受け取りも、そのタイミングは単純明快ではありませんね。