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霞が関で働く国家公務員が、資産運用・NISA・iDeCo(個人型確定拠出年金)など、おカネについて綴ります。

希望はあるか?~千正康裕「ブラック霞が関」を読んで~

ブラック霞が関(新潮新書)

ブラック霞が関(新潮新書)

 

 

2019年9月末で厚生労働省を退職した千正さんの著作。

 

タイトルだけを見ると、「霞が関の過酷な勤務実態を告発する本」という印象を受けますが、そうではありません。

著者が本書で訴えているのは、ブラックな勤務環境を放置してると最終的に被害を受けるのは国民であるということ。

そして「官僚が本当に能力を発揮できるようにするにはどうすればいいのか」について、多くの提言をしています。

 

霞が関改革」に関して、これほど具体的で実践的な本はかつてなかったと思います。

この業界の関係者だけでなく、多くの方に読んでいただきたいです。

 

議員からの依頼あるある

第7章「本当に国会を国民のために動かす方法 ~永田町への10の提言~」の一つ、「公務と関係ない発注の禁止」。

ここでは、「同じ地元のイベントに出席する2人の与党議員から役所にスピーチ原稿の作成依頼があった」というエピソードが紹介されています。

著者は、2人の原稿が同じにならないよう若手に注意したところ、その若手から「これって、役所がやる仕事なんですか?」と言われてハッとしたというのです。

 

一般的には知られていませんが、これは霞が関あるある」の一つ

自分も何度か同じ経験をしたことあります。

 

他にも、国会議員からの依頼では、「テレビの討論番組に出演するから想定問答を作ってくれ」とか、「議員のブログに寄せられたコメントへの返事を書いてくれ」とか、グレーゾーン案件は日常茶飯事です。知らんけど。

 

それでも、国民の代表たる国会議員、特に普段からお世話になっている議員の頼みとあらば、断ることは難しいです。

本来は議員本人や秘書の仕事なのでしょう。しかし、今や政策は多岐にわたり、高度に専門化しています。担当省庁・担当部局に聞かなければ分からないことがほとんどです。

 

ということで、私自身は「公務と関係ない発注の禁止」という著者の提言については、なかなか実現は難しいように思います。

そもそも、公務に関係する/しないの線引きはかなり曖昧ですし…。

 

むしろ案件の中身に関わらず、「〆切は必ず中2日以上あけること」などといった納期に関するルールの方が現実的かもしれません。

 

議員からの依頼には、〆切が「本日中」「至急」「大至急」「今すぐ!」といったものが少なからずあります。

そうした依頼が接到するや否や、担当者は業務の手を止めねばなりません。ただでさえ突発案件が多い職場なのに、腰を据えて政策をつくる時間がどんどん削られてしまいます。

 

すべての議員案件に余裕のある納期が設定されるようになれば、少しは状況が改善すると考えています。

 

霞が関の人員再配置は必要だが、国民の後押しが大事

第6章「本当に官僚を国民のために働かせる方法」の10個目の提言として、霞が関全体の人員配置の適正化と柔軟化」が挙げられています。

すなわち、近年急激に業務量が増えた省庁では人手不足感が強く、逆に、現在はその役割が縮小している省庁では戦力が温存されたまま。

なので、各省の人員配置の見直し霞が関全体でゼロベースで検証すべき、ということです。

 

これには完全同意

霞が関の定員は現状不足しているものの、絶対数を増やすには多額の税金を要します。まずは定員再配分に手を付けるのが良い。

とは言え、実現は簡単ではありません。

 

それなら、総理の鶴の一声で余力のある省庁の定員を減らし、その分、忙しい省庁の定員を増やせば良いのでは?というのが一般的な感覚でしょう。

 

しかし、これをやり遂げるには莫大な政治エネルギーが必要になります。

「現在はその役割が縮小している省庁」(←具体名を挙げると物議を醸すので自粛)はもちろん、その関係議員=いわゆる族議員との戦いになるからです。

 

一見「無駄」に思えることであっても、その先には多くの利害関係者が存在しています。それを一刀両断に切り捨てることは極めて難しい。

かつての民主党政権の「事業仕分け」と同様です。

 

しかも、各省の人員配置を見直しても、短期的・直接的には国民の利益になりません

現在は内外に多くの政治課題を抱える状況。「もっと先にやるべきことがあるだろ!」といった批判が起こりがちです。

 

なので、この改革に何よりも必要なのは多くの国民の後押し

即効性はないけれど、長い目で見れば、間違いなく日本にとって大事なことだと思います。

 

もはや霞が関は泥船か…でも!

第2章「石を投げれば長期休職者に当たる ~壊れていく官僚たちと離職の背景~」では、若手職員を中心に、離職が相次いでいる事実が指摘されています。

私も、自分が入省した頃と比べ、最近は辞める人が本当に多くなったと感じています。

 

最近では、4月、夏の幹部異動(通常国会閉会後。玉突きで若手の異動まで繋がる)、年末年始、といった区切りのタイミングになると、必ずと言っていいほど「退職のご挨拶」のメールが届きます。

「ブルータス、お前もか!」といった心境です。

 

それなのに、役所だけではその原因を取り除けないというのが「とてもつらい」by霊帝

以前も述べたように与野党による権力闘争の渦中にいる以上、霞が関の勤務環境は一朝一夕には改善しないと思うのです。

 

しかし、本書では根本的なものからミクロなものに至るまで、実に多種多様な提言がなされています。

多くの国民の皆様が霞が関働き方改革を「わがこと」と捉え、その機運が高まれば…。

 

これらの提言が一つひとつ実現し、我々はもっと世のため人のために働けるようになるでしょう。

 

霞が関を取り巻く状況は確かに厳しい。

そんな中でも、期待と希望を抱かせてくれる一冊でありました。

 

なお、霞が関で働くうえで「長時間労働よりも(・A・)イクナイ!!」と思うことがあるのですが、それはまたの機会に。