経済学者として幅広い活動をされている、大竹文雄氏の新刊を読みました。
競争社会の歩き方 - 自分の「強み」を見つけるには (中公新書)
- 作者: 大竹文雄
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/08/18
- メディア: 新書
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大竹先生の著作との出会いは、確か大学時代に「労働経済学入門」(日経文庫)を読んだのが初めてでした。役所に入った後は、中公新書の「経済学的思考のセンス」「競争と公平感」を拝読。
そして現在、ほぼ毎週、先生が出演しているEテレ「オイコノミア」を視聴しています。つまり私は大竹先生のちょっとした隠れファンなのです。
政府が行う制度の創設や改正は、人々の行動を大きく変えることになります。曲がりなりにも政策立案を行う者として、経済学をマスターすることはできずとも、その考え方は常に意識しておく必要があると思っています。そうした点で、大竹先生の本はどれも読みやすくてとても有益です。
損を嫌うがゆえに損をする
本書では投資に関する記載もあちこちで見られます。特に印象に残ったのは「損を嫌うがゆえに損をする」の一節です。
それによると、人は損を嫌うあまり、危険なことをしてでも、「参照点」にしがみつきたいという行動を起こしてしまうそうです。「参照点」とは、投資でいえば「株や投資信託の購入金額」のこと。
つまり、株価が大きく下落したとき、さらに下がる可能性が十分高いにもかかわらず、売却して損を確定するよりは、元に戻る可能性にかけてその株を保有し続けるという行動を取りがちであるということです。
このことは行動経済学で「損失回避」と呼ばれているそうです。
あのとき、何もしなかった私
この「損失回避」、私にも思い当たるコトがあります。それはリーマンショックが起こったときの自分の行動。
当時、国内外株式のETFを保有していた私は、大きく値下がりしても「売ろう」とは全く思えず、そのまま何もしませんでした。なぜなら損を確定するのが嫌だったからです。
しかし、売らなかったのは結果的に大正解でした。そのままETFを保有し続けたお蔭で、その後のV字回復を享受することができました(そのETFはその後、売ることになってしまいましたが…過去記事参照)。
分散投資×損失回避
このように、分散によるインデックス投資を行っている場合には、この「損失回避」が逆に良い方向に働くのだと思います。
すなわち、「長期的に見て世界経済全体は成長する」という前提の下、たとえ一時の暴落があったとしても、行動経済学のセオリーどおりに損を嫌って市場に居座り続けることで、力強い回復・値上がりの恩恵を受けることができるのです。いわゆる「稲妻の輝く瞬間」にも立ち会えるかもしれません。
まさに「損を嫌うがゆえに得をする」といえるでしょう。
一方、個別株の場合、一度大きく下落したものが再び値を戻す可能性ももちろんありますが、そうはならないかもしれません。このため、ときに損切りが必要な場面もあるわけですが、それは行動経済学上なかなか簡単にはできないことなのです。
これからも持ち続けよう
なお、長期分散投資を続けて行くためには、あらかじめ生活費1~2年分(人により様々)の生活防衛資金を確保しておくことや、投資総額を自らのリスク許容度の範囲内に収めておくことなども重要です。そうすれば、「泣く泣く損の確定を余儀なくされる」といったこともなく、市場に残り続けることが可能となります。
本書を読んで、インデックス投資は行動経済学上も理にかなっている投資法だと理解しました。今後どんな暴落が起こったとしても、投資信託を持ち続けることにしよう。損するのは大嫌いだから。