先日の記事(↓)の「番外編」です。
細かすぎて当該記事では書けなかったことなどを3つにまとめました。
1. 最も時間がかかるのは総理用の答弁案
国会では、いわゆる政務三役(大臣、副大臣、政務官)や政府参考人(局長、審議官などの役人)のほか、総理大臣も答弁することがあります。場面としては、本会議や予算委員会などが主です。日中働いている方は観たことないと思いますが、NHKで生中継されることも多いです。
そして、国会答弁案を作成する際、ダントツに時間がかかるのが、総理用の答弁なのです。
理由の一つはいたってシンプルで、「完成までに多くの人がチェックするから」です。政務三役や政府参考人の答弁であればその省庁内で完結するわけですが、一国の総理が読み上げる答弁ともなると、省庁の外を出て、総理秘書官などの官邸スタッフもチェックすることになります。
全ての省庁の総理答弁案が官邸に集中することもあり、官邸のチェック待ちで1~2時間待ちぼうけ、ということもよくあります。
また、「練りに練り上げるから」という理由もあります。総理の答弁はニュースで取り上げられるなどその注目度はケタ違い。このため、答弁の基本スタンスはもちろん、細かな言い回しにまで非常に気が遣われます。
NHK中継があるときなどはなおさらです。テレビを観たり、ラジオを聴いている方、誰が聞いても理解できるような表現になるよう多くの人が腐心します(「それであのクオリティかよ!」というツッコミはご勘弁を)。
そうこうするうちに答弁案が完成するのはだいたい午前2時とか3時。ですので、いち公務員の立場としては「対総理大臣の質問が当たった」との連絡を受けたときは心底ガックリきます。自分が携わっている行政分野のことで総理が国会で議論するということは、とても光栄なことではあるのですが。
2. 野党議員の質問は、厳しい
国会議員には与党議員と野党議員がいるわけですが、どちらもバッターとして国会質問に立ちます。そして、どっちがより答弁案の作成に苦労するかと言えば、文句なく後者です。
与党議員の質問は、政府の取り組みを後押し・応援してくれるものが基本的です。トリッキーな質問も少なく、その準備は比較的容易です。
一方、野党議員のそれは、政府の政策の問題点を鋭く突いてきたり、不祥事を厳しく攻めてきたりするものが多く、対応にとても難儀します。
「これが健全な民主国家の姿だ!」と言われれば全くそのとおりであり、反論の余地はありません。それ以上に辛いのは、一部の野党議員が、あえて事前の質問通告を曖昧な内容にして、細かな質問内容を教えてくれないことです。
これには、手の内をすべて見せないことで、より政府への追及を厳しくするという戦略だと思われます。「基本的なことしか聞かないから、細かく通告しなくても答えられるはずだ」と、某議員に言われたことがあります。
確かに一理ありますが、曖昧な質問通告がなされたとき、各省庁は予想される質問(想定問)をたくさん立てて、それぞれにつき答弁案を準備しなくてはなりません。むろん、答弁者をでき得る限り支えるためです。このとき、想定問答集一式を作成するのに通常よりも多くの時間を要することになります。
にもかかわらず、せっかく用意した答弁案が使われず無駄に終わる「空振り」が、数あまた発生することは言うまでもありません。
このように、同じ国会の質問でも、それが与党議員のものか、野党議員のものかで、答弁案の作成に要する時間やプレッシャーは大きく異なってきます。
なお、「だから野党(特に民進党)はダメだ」ということを言いたいのではありません。自民党も野党時代はまったく同じことをやっていました。
3. でも、いつも、みんな大変ってわけじゃないのよ
国会対応は確かに大変ですが、とはいえ、年がら年中、国会対応をしているわけではありません。
平成28年の国会会期は、実質的に通常国会(150日。国会法という法律で決まっている)+臨時国会(83日)の合計233日でした。平成27年は臨時国会が開かれなかったものの、通常国会が大幅に延長されて245日間。その前の平成26年は通常国会+臨時国会で204日間です。
つまり、これらの期間以外は国会は開かれていないということ。当然、答弁案の作成を求められることもありません(閉会中でも、党の会議や個別の場に呼ばれ、議員に施策の説明をしたり議論したりするという意味での「国会対応」は普通にありますが)。
また、霞が関に勤務する国家公務員皆が皆、国会対応に明け暮れているということもありません。
質問がよく当たる課室・担当係はある程度限られていて、答弁案作成とは無縁の業務をしている人もそれなりにいます。私も何度かそうした課にいたことがありますが、「明日、国会で何を議論されるのか」ということを全く気にせずマイペースで仕事をしていました。
国会質問が当たらなくても十分忙しいときもありますが、プレッシャーが少ない、というのはありがたかったです。
臨時国会の冒頭で解散…だと?
ちょうどこの記事を投稿しようとした矢先、こんな報道が。
安倍総理大臣が公明党の山口代表に対し、今月28日に召集する方針の臨時国会の会期中に、衆議院の解散・総選挙に踏み切ることを排除しないという考えを伝えていたことが関係者への取材でわかりました。安倍総理大臣は、今後、政府・与党の幹部の意見も聞き最終的な判断を固める方針で、内閣支持率の回復で早期の解散・総選挙を求める意見が強まっていることも踏まえ臨時国会の冒頭にも解散する方向で調整が進められるものと見られます。
「もうすぐ臨時国会か…」と覚悟を決めていましたが、ここにきて驚きのニュースです。
NHKがここまでハッキリ報じるということは、かなり確率が高いのではないかと思います。個人的な経験からいえば、これに読売新聞が続けば「ほぼ確定」という気がします。
衆議院が解散されると、選挙のため国会議員は皆さん地元に帰られます(参議院議員も応援のため永田町からいなくなる)。そうすると、霞が関は目の前の業務にコツコツ徹することしかやることはなくなり、比較的暇になります。「選挙が終わればまた忙しくなるから、今のうちに休んでおこう」と呼びかける上司も出てくるほど。
もし本当に衆議院が解散になれば、私も早めに帰宅して家族との時間を大切にしたいと思います。