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霞が関で働く国家公務員が、資産運用・NISA・iDeCo(個人型確定拠出年金)など、おカネについて綴ります。

春なのにデートもしないで「人生100年時代の年金戦略」(田村正之著)を読了

人生100年時代の年金戦略

人生100年時代の年金戦略

 

 

毎年この季節になると、ピチカート・ファイヴの「ベイビィ・ポータブル・ロック」という曲が頭の中をぐるぐる回ります。

さて、そんな折、著名ブロガーの皆さんから絶賛されていた本書を読み終えました。

うん、確かにこの本は一人でも多くの方に読んでほしい!そんな良書であります。

 

とても有益な情報が満載!

本書で繰り返し強調されているのが「公的年金=保険」という基本的事実です。

中でも「長生きリスクに備える保険」という公的年金の主な位置づけは、もはや必修もの。この基本を押さえられているか否かで、年金への理解も大きく変わってくると思います。損得勘定だけで年金を捉えることもなくなるはずです。

一方で、そうは言っても民間の年金とは異なり、公的年金は強制加入(強制適用)。保険料支払いが義務付けられている以上、果たして損なのか得なのかは気になるところです。

なので、本書にはこの疑問についても明快な「答」が書かれています。すなわち、

  • 悲観的なケースでも、平均的には保険料を払った以上に年金をもらえる計算。よって年金は「お得」な制度である。
  • むしろ、保険料を払わずに無年金となれば「税金の払い損」となる。

という考えです。

一体どういうことなのか、詳しくは本書をご覧ください。納得のいく記述がなされています。

このほか、年金は終身もらえること、繰り下げ受給がお得であること、障害年金・遺族年金のこと、そしてiDeCoのことなど、有益な情報が満載です。

途中かなりマニアックなことも書かれていますが、読み飛ばしても全く問題ありません。「雰囲気」だけつかめれば十分です。

 

良書だけど、やっぱり読まない人のほうが多数派なんだろな

ということで、読めば年金について絶対に持っておくべき知識が得られるという点で、本書は「国民皆必読の書」といえます。

しかし、これほどの年金本に接してしまうと、一方で、かえってモヤモヤを感じる私がいます。

年金のことは日本国民すべてに関わる超重要事項なのに、どうも正しい理解が浸透していない。誤解やデマも多い。どうしたらより多くの人に正確な情報が伝わるのだろうか、と。

本書も年金に関心がある方やマネーリテラシーの高い方ならちゃんと手に取るのでしょう。でも、全体から見たらきっとごくわずか。「せっかくの良書なのにもったいない…」という寂しい気持ちが強くなるのです。

この本に書かれている情報を無関心層にも届けないと、キャッチーな誤解やデマが席巻してしまいます。

 

年金の広報は難しい

「政府がもっと広報に力を入れるべき」というご意見、至極ごもっともであります。

確かに公務員は広報が下手っぴですが、それは「正確さ」や「網羅性」を過度に重視するあまり、「分かりやすさ」「とっつきやすさ」を後回しにしてしまうからだと思われます。

言うまでもなく、公的年金は複雑な制度の代表例。また、その人その人によって年齢や働き方、お給料等は様々であり、実際の受給額も千差万別。本書の序章のタイトルは「『年金をいくらもらえるか』は自分の選択次第」ですが、まさにこのことは年金の本質を突いている一方、説明を困難にしている所以でもあります。

ですので、年金のことを国民の皆さんに正確かつ網羅的に伝えようとすると、どうしても複雑怪奇な内容にならざるを得ない。結果として正しい情報を広めることがなかなか叶わない。政府はこうしたジレンマを抱えているように思います。

 

「唇寒し」の悪循環

また、残念ながら、もはや年金については何を話しても「唇が寒い」という悪循環に陥っています。これは過去の年金行政の幾多の失敗が足枷となり、年金への信頼が失墜しているためです。

本来、年金は国民の老後を支える大切な制度のはず。実際に今も多くの人々が年金をもらって生活しています。本書のコラムでも、著者の田村氏は「『黒歴史』に過度にとらわれて『年金はあてにならない』と決めつけるのは自らの不利になります」と呼びかけています。

しかし、やはり国民に深く根付いてしまった年金への不信感はそう簡単には拭えないようです。

最近では、「ガチヤバイ!? リアルガチでやばいかも!?」などという日本年金機構のプロモーションツイートが批判を浴びる一幕がありました。

日本年金機構のツイートが炎上「他人事のような煽り」 機構側は削除しお詫び (BuzzFeed Newsより)

 

過去の「消えた年金問題」のことを考えると、このツイートはあまりに軽率過ぎます。でも、百歩譲って機構(あるいは受託事業者?)の中の人が何とかして若い人に訴求しようとして捻り出したツイートだと想像すると、少々気の毒にも思えます。

昔やらかしてしまった以上、もう年金のことは生真面目にPRするしか道はないのでしょうか。それとも他にも工夫のしようがあるのでしょうか。

私としては、多くの若い人に必要な情報を届けるために、これからも試行錯誤を続けてほしいと思います。

 

ご参考:政府の年金広報今昔

本書の書評は年金広報の話に派生しました。関連して、私が把握する限りで政府の過去の取組と現在進行中の動きを簡単に紹介します。

社会保障の教育推進に関する検討会

2011年から2014年にかけて、厚生労働省で「社会保障の教育推進に関する検討会」が開催されました。検討会の座長は、「ちょっと気になる社会保障」などの著作で知られる権丈善一です。

検討会では、「社会保障教育」の一つとして当然に年金教育についても議論されていますが、その成果物の一つに「高校生が知っておくべき将来の話」という副教材があるようです。

この副教材の作者は、お馴染みのクマさんの絵からも分かるように、カリスマ予備校講師の細野真宏氏。「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」という新書を出されている縁で検討会に参画されたのでしょうか。

副教材は文字数多くて少々面食らいますが、10分で読めるとの触れ込みです。 そして、さすが細野氏が作成しているだけあって、書かれてあることは分かりやすく、どれも大切なことばかり。本書の内容とも相当部分で一致しています。

今から5年前に既にこんな広報がなされていたんですね。多くの若い人たちに読まれるよう願ってやみません。

 

年金広報検討会

一方、こちらは今まさに開催されている検討会のようです。開催趣旨は以下のとおり。

 「人生 100 年時代」において、人々は教育・仕事・引退等、マルチステージの人生を送るようになる。また、老後期間の長期化等に備え、引退後の所得について公的年金企業年金個人年金等を適切に組み合わせていく必要がある。
 さらに、公的年金に対する国民の信頼感の向上を図るとともに、情報の受け手である国民の目線に立った分かりやすい年金広報の実施が求められている。
 このような観点から、個別の年金広報事業のほか、現状や課題を踏まえた今後の年金広報のあり方の検討に関して技術的な助言を得るため、有識者等からなる本検討会を開催する。

第1回年金広報検討会資料1より)

 

本日時点でまだ2回しか開催されておらず、今後の議論に大いに期待したいところです。

が、ご覧のとおり資料の掲載の仕方が極めて不親切。一つひとつクリックしないと、どんな資料か分かりません。「情報の受け手である国民の目線に立った分かりやすい」広報からは程遠い姿勢で、とても残念です…。