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霞が関で働く国家公務員が、資産運用・NISA・iDeCo(個人型確定拠出年金)など、おカネについて綴ります。

霞が関の公務員が直面する「国会対応」の特殊性

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最近、心なしか、職場の若手職員の退職が増えてきたような気がします。

それも「新たな挑戦のため」といったような前向きな理由ではなく、勤務環境の酷さに起因するものが大多数を占めています。メンタル不調に陥った人、ワークライフバランスを求めた人、「今の働き方では子どもができない」と言い残した人…。

意欲も能力も将来もあった若い職員が去っていく姿をただ見送るだけというのはなかなか辛いものがあります。

霞が関の勤務環境がよろしくないとされている要因は、予算案の編成であったり、法律案の作成であったり、「骨太の方針」をはじめとする閣議決定文書案の政府内協議であったりと様々ですが、特に「国会対応」という霞が関特有の業務の存在感は無視できません。

今回、おカネの話題から少し離れ、霞が関公務員の働き方の一端をご紹介する上で、「国会対応」の特殊性についてフォーカスしたいと思います。

その特殊性とはズバリ、「超短納期」の仕事が「不定期」に降ってくる、というものです。

 

そもそも「国会対応」とは

「国会対応」にはいろいろありますが、国会、つまり、本会議や予算委員会・外務委員会といった各委員会で議員が行う質問に対して、大臣などが読む答弁案をあらかじめ役人が作成するという業務が中心となります(なお、「官僚が事前に答弁を作成するのはけしからん」という議論はここではしません)。

まず、議員が国会で質問する場合、事前に省庁に対して「質問通告」を行います。例えば、委員会が開かれる日の前日に、質問を行う議員(バッター)が「明日の農林水産委員会で、『TPPは日本の農業にどう影響するのか』という質問をするよ」と先に教えてくれるのです。

そして、その質問に関係する省庁の担当係・担当者は、速やかに答弁案を作成し、翌朝に開かれる大臣等の答弁勉強会(担当課長などが答弁案の内容をレクチャーする場)を経て、委員会本番での議論に臨むことになります。

この一連の流れ、文字にするとあっさりしていますが、ここに国会対応の特殊性が潜んでいます。

 

納期は「翌朝」

まず、国会対応では、多くのケースにおいて納期が「翌朝」となります。

これは、通常、質問内容が明らかになるのが、本会議や委員会が開かれる前日になるためです。そして、翌朝6~7時くらいから大臣等の答弁勉強会が開かれます。

このため、何が何でも翌朝の答弁勉強会までに間に合わせなければアウトなのです。

答弁案の作成にどれだけ時間がかかる?

質問の内容や数次第でケースバイケースです。

先に例示した「TPPは日本の農業にどう影響するのか」といったような質問であれば、きっと担当係にとっては定番の内容ですので、答弁案を作成するのにそれほど時間はかからないでしょう。最短で1時間くらいです。

しかし、事実関係を調べたりやデータをかき集めなければ答えられない質問や、関係部局・省庁と調整した上で答弁案を作成しなければならない質問も数多く存在します。このとき、たった1つの答弁案の作成に10時間以上かかってしまうことも珍しくありません。

また、質問数が数問から10問を超えてくると、担当係としてはかなり苦しくなります。

特に、法案が審議されるときや「集中審議」のときなどは、議論するテーマが絞られるので、おのずと質問は特定の省庁・部局に集中します。そうしたときは、一つの課で一晩に100問以上の答弁案を書き上げなければならないこともあります(もちろん他の課室から応援要員を派遣してもらいます)。

このように、難易度の高い質問がなされたり、質問の数そのものが大量であったりと、答弁案の作成にはかなりの時間を要するのですが、それでもとにかく納期は「翌朝」なのです。

延ばすことは許されません。大臣に答弁席で立ち往生させるわけにはいかないのです。

 

質問は不定期に突然やって来る

また、国会会期中は、朝、家を出るときに「今日は何時に帰れそうだ」という見通しが全く立ちません。国会は不確実の塊です。

その背景には、国会の運営方法が大きく影響しています。

日本の国会では、本会議や委員会をいつ開いて、何をテーマに議論するかということを、与野党の担当議員(いわゆる「国対」)同士で決めています。

しかし、本会議や委員会の開催が決まるのは前日、というケースがほとんどです。

その後、それぞれの政党がバッター(質問者)を指名し、各バッターが質問を考え、それを関係省庁に通告する、という流れになるのですが、その頃にはもう夕方や夜になっていることもしばしば。

そこから、答弁作成担当の省庁が決まり、部局が決まり、課室が決まり、担当係が決まり、そうしてようやく担当係が答弁案の作成に取り掛かります。うまくいけば終電で帰れますが、多くのケースではタクシー帰りとなってしまいます。

省庁側から見れば質問通告は突然来るので、定時になって「そろそろ帰ろうかな」と思っていても、「質問が当たりました!」となれば、その瞬間もう長時間労働確定、というわけです。

もちろん何も質問が当たらず、早く家に帰ることができたということも数多くあります。しかし、不確実な要素が大きいあまり、見通しを持って毎日の生活を送ることができないのは、心身を徐々に蝕んでいる気がします。 

 

このままでいいのか 

2014年、霞が関に勤務する子育て中の女性職員有志が、その働き方に関する提言を行いました。強い危機感の下、重要なことが数多く提言されていますが、その最後の「国会質疑関係業務の改善 」という提言の中で、次のようなことが書かれています。

そうした状況の中、先日、自民党において、質疑前々日の18時までに質疑要旨通告を行うよう、国対委員長から御指示いただきました。こうした取組が広がれば、すべての職員の負担が大幅に軽減されます。この取組を是非、すべての国会議員の間に広げていただきたいというのが、私たちの切なる願いです。

持続可能な霞が関に向けて-子育て等と向き合う女性職員の目線から-(P23-24)

全体の奉仕者である公務員が、「質疑前々日の18時までに質疑要旨通告」といった要望を国会議員に行うことはかつてなく、画期的なことだと思います。

しかし、現状は改善傾向というレベルに留まっているに過ぎません。与野党間の駆け引きによって「委員会をいつ開催するか」等がなかなか決まらない今の日本の国会の状況下において、根本的な解決には遠く及んでいないのです。

とはいえ、「このままでいいのか?」という思いは日に日に強くなっています。

仮に答弁案の作成が間に合わず、「通告が遅かったので、答弁の準備ができなかった。よって何も答えない!」 と開き直ったとしても、時の野党やマスコミ、国民の皆様が「それはしょうがないよね。公務員も人間だもの」と許してくれるようになれば、今の状況は劇的に変わると思います。

そんな日がいつか訪れるのでしょうか。いや、うーん、ないだろな…。